<< おじゃったもんせ・・・ 藤田嗣治展・・・ >>

先ず、慮りを以って・・・

全国的に母の日だった今日、花屋の店先は鮮やかなカーネーションの花束が溢れていた。
毎年、花でも持って訪ねたら喜んでくれるかなと思うに、お互い照れるのでこの日はかわして訪ねる事にしている。
母の日というと数年前になるが青木玉さんの素敵なエッセイと出会った。
短い文章なので全文を引用させていただくと・・・

     先ず、慮りを以って 

 明治生れの母は、何に対しても、先ず、慮(おもんばか)りを以って、と教えた。
 知識も経験も無い身には、何に対して、何を考えればいいか解らない。仕方がないから注意すべき点は、と聞いた。
 教えられることは、実に簡単な事のように思える。それなら別に気にすることは無かろうと軽く思った。ところが実際は、予想外に面倒な状況になり、判断に迷う事、しばしばであった。
 実際、母は、ひとつことにたいして、三通りぐらいの対応を考えていた。思い通りに事が運ばないとき、相手は何を考えているか、もう一歩、踏み込んで聞くか、さっと引き下がるか、別の手立てはどうであろうか。実に用心深く、一度で用が足りる材料を言葉だけでなく、雰囲気からも敏感に掴み取った。側で見るかぎり、にこやかな会話が流れて、その前にあれほど考えを詰めていたことなど忘れているかに見えた。
 先ず、慮りを以って、と教えられてから五十年になる。私の慮りは相変らず隙間だらけ、事後になって詰めの甘さを悔む事が多い。耳順をとうに過ぎて、なお百戦危うからず、というわけにゆかない。母はちゃんと教えてくれたのに。

                               青木 玉 『手持ちの時間』 講談社より



読み終わって『ああ、なんて素敵な母娘関係・・・』と軽い嫉妬さえ覚えた。
慮りを以つ・・・自己主張だけは何をさておいてもの時代には、もう死語に近い言葉かもしれない。
更に感動したのが 『側で見るかぎり、にこやかな会話が流れて、その前にあれほど考えを詰めていたことなど忘れているかのように見えた。』 の部分である。
慮りを以って、それを悟らせない。そんな芸当、人生を3回繰り返しても出来そうに無いと思いつつ、母の日には何故か思い出してしまう大好きなエッセイである。
[PR]
by lime2005 | 2006-05-14 22:14 | 日記
<< おじゃったもんせ・・・ 藤田嗣治展・・・ >>