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西本智実の『ジーズニ』・・・・

チャイコフスキーが書き残した未完成交響曲『ジーズニ』の日本初演ツアーがサントリーホールで行われた。
 指揮 西本智実  演奏 ロシア交響楽団(チャイコフスキー記念財団)


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****purogram****
      (2F-2列 LB 8 )

チャイコフスキー:交響曲5番

 --intermission--

チャイコフスキー:   
未完成交響曲『ジーズニ』
 
 --encore--

近日公開



この日のサントリーホールはほぼ満席、それぞれが『ジーズニ』に対する期待を胸に秘めて着席した筈だ。私自身もどれ程この曲を待ちわびただろう。
一曲目の5番は西本さんの生き方や今の心情にぴったりと寄り添う曲
ロシア・シンフォニーは編成はやや小さいながらも、クラリネットが奏でる重々しい序奏から深くて重厚な音が・・・紛れも無いロシアの響きである。
『運命』に逆らってひたすら前に突き進む感じが、力強さと独特の哀切感で表現されていく名曲を渾身の指揮と演奏で聴かせてくれた。

そして『ジーズニ』、変ホ長調、第3楽章のこの曲は全体に表層的で明るい印象。そこかしこに優美な旋律が漉き込まれた紛れの無いチャイコフスキーの曲として目の前に現れた。
しかし、作曲された年代が5番と6番の間とは思えない、『運命』『疾走』『絶望』『死』・・・と言ったキーワードを微塵も感じさせない曲調に驚く。
特に第2楽章の愛のささやきのような幸福感は一体何処から来るものなんだろう~と考え込んでしまった。
そこで頭を過ぎったのがモーツアルトの弦楽五重奏曲第4番の最終部分。
小林秀雄が『涙の裡に玩弄(がんろう)するには美しすぎる』と評した長い疾走するかなしみを表現した短調から、突然明るく単純な長調に転換される意表をつく部分である。
それは長い苦しみから解き放たれて自由になる瞬間のイメージ
モーツァルトは確信犯的な巧妙な仕掛けでこの転調をやってのけたのだと思うが、『ジーズニ』にも同じような作為を感じた。でなければ例え未完で封印される運命を辿った曲としてもその頃のチャイコフスキーの向っていた音楽とはかけ離れて感じるからである。

 私にとっての『ジーズニ』とは・・・後期交響曲の完成された揺るぎない素晴らしさを再確認し、それでも苦しみから解放されずに曲を未完のまま封印させて死へと突進んだ作曲家の無念を突きつけられた、そんな曲である。
 さて、演奏会を成功に導いた西本さんにとって『ジーズニ』とは何だったのかをぜひ知りたいな!!
by lime2005 | 2006-06-06 09:42
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