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ボストリッジ『冬の言葉』・・・

イングリッシュ・テナーの貴公子、イアン・ボストリッジ(Ian bostridge)のリサイタルを、東京オペラシティで聴いた。
ボストリッジのコンサートは2004年3月以来で、今回が2度目。

ボストリッジ『冬の言葉』・・・_e0038778_8245980.jpg
   ジュリアン・ドレイク(P)

   ***purogram****

 シューベルト 『冬の旅』 より   
         
  --intermission--

 ブリテン  『冬の言葉』
         
  --encore--

 まだリサイタルが続くので暫く秘密♪




前回、内田光子との『美しき水車小屋の娘』で生きて血脈打つシューベルトを聴かせてくれたボストリッジ。今回の来日までの2年は本当に待遠しく長かった。
リサイタルのテーマは『冬』
タイトルの『冬の言葉』はトーマス・ハーディの最後の一編の詩にブリテンが作曲、他のハーディの詩と合わせて全部で8曲に仕上げた作品。人生の終末を予感させる静かで冷たい抒情と気品を漂わせている曲。

  8篇、どの詩も琥珀のような時の光を纏っていたけれど、
  特に心にとまった詩は、、、

    小さな古びたテーブル (山内久明 訳)

  キーっと軋む、小さな木造のお前、キーっと軋んでごらん、
  わたしがお前に肘か膝で触れるたび。
  キーっとお前が軋むと
  お前をわたしにくれた女(ひと)を思い出す。

  お前は小さなテーブル、あの女(ひと)がくれた
  運んで持ってきてくれた、自分の手で、
  わたしを見つめたその女(ひと)の心は、
  わたしには読めなかった

  ---やがてお前の持ち主となり
  お前の軋みを聞く人に、わかろうはずもない。
  どんないわれがあるのやら
  この軋み、遠い昔からの。



確かで尊いその人の一生も、いにしえの時の流れの中では一瞬のテーブルの軋みに過ぎない・・・と、ボストリッジは歌う。それは一抹の虚しさでもあり、悠久の時に戻る安堵感でもある。
終わりがあるからこそ、今ある生(せい)が輝く、、、『冬の言葉』 

詩(言葉)に一番近いのが音楽。
言葉のもつ意味や響きをその音楽的手段をもって昇華させる歌唱、、、それがボストリッジの世界じゃないかと感じる。
それは一人称で朗々と気持ちを吐露するオペラとも、心の奥底を強い説得力で聴かせるドイツ・リートの世界とも全然違う、透明で孤独で遊離感のある衝動的歌唱

細やかさの中に冷たい気品を湛えたブリテンの歌曲はそんなボストリッジの歌の世界に見事に重なる。
案の定、今回のリサイタルは興行的には決して成功するとはいい難いブリテンの歌曲をぜひ歌いたい、とボストリッジの強い希望で実現したとか、、、、

彼の歌を感じている間は説明し難い不思議な幸福感に包まれた、そんなリサイタルだった。

 
『言葉が音楽にかわるように、音楽が言葉に従うように』
                            イアン・ボストリッジ 

  
最後になりましたが、このリサイタルをご一緒していただいた友人Tさんに心から感謝を。
by lime2005 | 2006-11-15 23:39 | 音楽
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