渋谷の東急bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている、『ルドンの黒』展に出かけた。誘ってくれたのは最近私の影響で世紀末絵画や幻想文学に興味津々の娘。
画家オディロン・ルドン(1840~1916)との出会いは20代前半に読んだユイスマンスの小説『さかしま』(翻訳・澁澤龍彦・河出文庫)だった。 (←表紙はルドン『沼の花、悲しげな人間の顔』) 小説は主人公、デ・ゼッサントが世の中の全てに嫌気がさし現実逃避、自分だけの夢想の牙城を築いていく様を描いた幻想的異端作品で、その重要な小道具である室内装飾の一部として選ばれたのが、ルドンの絵画だった。 この小説の面白さを書き始めるとルドンに至らなくなるので(笑)またの機会に譲るが、、、今回、ルドンの原画を鑑賞するのは全く初めてだというのに、何処かで出会った懐かしい感じがしたのはたぶん小説のせいだと思った。 会場はギリギリに抑えた照明にシンプルな展示スペース。繰り返し流されるサティーのピアノ曲の無機的なフレーズ(金粉だったと思う)が黒のファンタジーに融合する。 順路、暗黒に浮かび上がる巨大な目を持った気球。悲しげな眼で目ばたきする骰子(さいころ)や軀の真ん中に人間の顔のある怖ろしげな笑う蜘蛛・・・心や時代の闇をルドンなりに表現した初期の石版画を眺める。つい想像力を働かせて、仕組まれた暗示を解く様に観てしまうルドンの黒の世界。 途中、1888年の作品で『デ・ゼッサント』と言う作品を目にする。あの『さかしま』の主人公である。当時無名だったルドンの黒を小説中に取り上げて、最初期のスポークスマンとなったのがユイスマンスその人だったそうだ。 その後、作品に変化が現われるのが『目を閉じて』という作品。 是まで大きな瞳を見開いて恐怖や悲しみの視線を送り続けた目が静かに閉じられている。変化はそれだけに留まらず、ルドンの黒に光が射し込み、淡い色彩が浮かび上がる。 晩年のルドンの作品は鮮やかな色彩と柔らかいパステルの質感に代わり、石版画のひんやりとした黒の世界が消える。そしてテーマやモティーフから闇と怪奇は消えうせ気高さやユーモアーさえ漂う作品世界に変化する。 印象派の画家達が外光を書き留める事に没頭していた同時代に、ルドンは心の闇を描き続けた画家。でもルドンの黒は全ての色を包括する気高い精神の黒だったのでは、、、と思えたほどだった。それは光さえも取り込んでしまう・・・。 黒はもっとも本質的な色彩である。 オディロン・ルドン
by lime2005
| 2007-08-10 00:02
| 音楽
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