着物の話しが続きます。 娘の二十歳のお祝いに仕立てた振袖。 選ぶにあたって娘に出した条件はひとつだけ。 それはかつて自分がつけた帯を使って欲しかった事。当然制約がかかる中娘が選んだのは若紫の辻ヶ花。ああ~つくづく親子と思ったのです(笑) それはさておき、こんな話しが。。 今からかれこれ60年ぐらい前でしょうか。 昭和20年代の初めの同じ季節に、娘の門出に真っ白な振袖を仕立てさせた母がいました。 振り袖、それは人生で最も華やかな一時を飾る衣装。赤や紫やピンクの艶やかな地色に金糸や銀糸、刺繍に絞りがふんだんにあしらわれた『晴れ』の日の一枚である。 それなのにその母が用意したのは只の真っ白な無地の振袖。 『先ず白い振袖を作って春の花を描くのはどうだろう。肩にときいろの桜、袖に紫の藤、裾に黄色の連翹なんか賑やかだと思わない。』 そんな手の込んだことをして大変じゃないの?と驚く娘に 『人を頼まないで自分で描けばいい・・桜は五弁でしょう。藤は大きく伸び伸びとやって上の方の花を大き目に、順に小さな花にすればいい、逆に連翹は小さい四弁の花を裾の方に流れるように描けば出来上がりさ。でも油絵の具は止めた方がいいね。顔料でやる方が危なくないよ』 ・・・・・と本気である(笑) やり損ったら困るでしょう~と尻込みする娘に 『あんたって子はどうして何でもやり遂げようとする気性が無いのだろう、だから何時も及び腰で自信が持てないのよ。母さんは精一杯、あんたの若い日の一日を飾ってあげようと思っているのに、当人がその気を持とうとしないんじゃ話しにならないじゃないの』 と娘の気弱をはがゆがる母。もう口調でお解かりですね(笑)そう、それは幸田文さん。 娘の玉さん著『幸田文の箪笥の引き出し』(新潮社)の『着なかった振り袖』中の一文である。 この白い振り袖の話、20代に読んでも30代に読んでもピンとこなかったのに、今は文の娘(玉さん)を思うジリジリするような母心を少しだけ理解出来るようになったのです。 さて、その白い振袖ですが、その後どうなったと思いますか? 玉さん曰く、淋しさを思うほど上品な白で、衿と袖口と裾が赤と若緑の比翼仕立てに彩られた、まるで平安人のかさねのような美しい着物に出来上がって来たと言います。 『何て綺麗な色、ごちゃごちゃ絵なんか描かなくても、このままで充分、いっそ帯もこの色で七三にして文庫に結んだらどうかしら。母様どうやってこんな綺麗な取り合わせ考えついたの』 『あんた何も気がつかないかい、これお雛様の菱餅さ』とくすくす笑う母。 ああぁ~なんてお茶目な親子(笑) そしてこんな思いの込め方もあるものだなあと、振袖つれづれに・・・・。
by lime2005
| 2009-01-18 06:56
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